【光る君へ】ネタバレあらすじです。
【光る君へ】ネタバレ
私、道長は、夜な夜な炎に照らされる内裏の空を見上げては、深いため息をつくようになっていた。
これで何度目の火災だろう。まるで天が怒りの炎を投げつけているかのようだ。私にはわかる。これは紛れもない神々の警告、天の怒りの表れなのだ。三条帝の政が、この国にもはや相応しくないという天からの厳しい諫めではないか。
「陛下、どうか譲位をお考えください」
私の言葉に、三条帝の横顔が強ばる。かつて凛々しかったその表情に、今は何か翳りのようなものが見える。帝の目は、まるで遠くを見つめているかのように曇っている。これは単なる強情さからではない。帝の中で、何か異変が起きているのではないかという不安が、私の胸を離れない。
摂政として、この国を支える者として、私には見過ごせないものがある。内裏の火災は、もはや偶然では片付けられない。天が我々に示す兆しは明らかだ。しかし、それを帝に伝えれば伝えるほど、帝との溝は深まるばかり。
「まさか、陛下の御身に…」
その予感は、次第に確信へと変わりつつあった。帝の佇まいの揺らぎ、時折見せる虚ろな眼差し。かつての聡明さは影を潜め、その代わりに何か不穏なものが忍び寄っているように見える。
その一方で、宮中では別の物語も進んでいた。まひろは相変わらず筆を走らせ、『源氏物語』を紡いでいる。彰子に仕える傍らで、あの才知溢れる女性は、まるで天から授かったかのような物語を綴り続けている。時折、私の目が彼女の姿を追うとき、胸の内に温かいものが広がるのを感じる。
越後から帰京した為時との再会。まひろの表情が、久しぶりに柔らかな光を帯びた。そして我が愛娘・賢子からの恋の相談。宮中の日々は、確かに穏やかに流れているように見える。だが、それはまるで嵐の前の静けさのようにも感じられた。
賢子の恋の相談を受けるまひろの姿を見ながら、私は思う。この平安の都で、人々は それぞれの物語を紡いでいる。愛も、夢も、希望も、すべてが日々の営みの中で花開こうとしている。しかし、その上に垂れ込める暗雲は、もはや無視できないものとなっていた。
内裏の炎。帝の異変。そして迫り来る政変の予感。
私には見える。この国が、大きな転換点を迎えようとしていることが。摂政として、この国を守護する者として、もはや躊躇っている時ではない。時に、守るべきものを守るためには、痛みを伴う決断が必要なときがある。
まひろが『源氏物語』に描く栄華の世界。それを現実の世界でも守り続けたい。そのためには、この私が、新たな歴史の1ページを開かねばならないのかもしれない。
夜空に立ち昇る炎を見つめながら、私は決意を固めていた。この平安の都を、この国の未来を、この手で守り抜かねばならない。たとえそれが、どれほどの代償を伴うとしても。
空には、まだ火の粉が舞っていた。それは、まるでこれから起こる激動を予見するかのように、夜空に赤い軌跡を描いていたのだ。
まひろ語り【光る君へ】ネタバレあらすじです。
私、まひろには、宮中に漂う不穏な空気が手に取るようにわかった。
内裏で相次ぐ火災。それを「天の怒り」と解釈する道長様の言葉。そして、日に日に変わりゆく三条帝の御様子。この平安の都で、何かが大きく動き出そうとしているのを、私は肌で感じていた。
筆を走らせながら、時折窓の外を見やる。今日も内裏からは黒煙が立ち昇っている。皇太后・彰子様にお仕えする身として、この異変を見過ごすわけにはいかない。しかし、『源氏物語』の筆も止めるわけにはいかないのだ。
「まひろ」
ふと、懐かしい声が耳に届いた。越後から帰京した父・為時だった。久しぶりに見る父の姿は、相変わらず凛として、しかし少し疲れているようにも見えた。都での政変の噂は、もう越後にまで届いているのだろうか。
「父上、お久しぶりでございます」
再会の喜びに胸が震えた。しかし、その温かな感情も束の間、現実の重みが私を引き戻す。宮中では、道長様と三条帝の間に深い溝が生まれつつあった。譲位を迫る道長様。それを頑として拒む帝。その緊張関係は、まるで『源氏物語』の一節のようでもあった。
「まひろ様」
今度は賢子が私を訪ねてきた。道長様の愛娘である彼女の瞳には、初々しい恋の輝きが宿っていた。恋の相談とはいえ、この時代に生きる女性として、私にも彼女の心情はよくわかる。しかし、この不安定な情勢の中で、純粋な恋が実を結ぶことができるのだろうか。
夜、几帳の陰で『源氏物語』を書き進めながら、私は考える。物語の中の世界と、目の前の現実が、時として不思議なほど重なって見えることがある。権力と愛。栄華と没落。人の世の移ろい。それらすべてを、この筆一本で描き続けることが、今の私にできる唯一のことなのかもしれない。
彰子様の御前に伺候しながら、私は時折、道長様の姿を目にする。かつての威風堂々とした佇まいは変わらないものの、その眉間には深い苦悩の色が刻まれているように見えた。摂政として、この国の行く末を案じる重責は、並大抵のものではないのだろう。
そして三条帝。最近お目にかかる機会は減ったものの、その御様子には確かに何か異変が感じられた。かつての凛々しさは影を潜め、代わりに得体の知れない翳りのようなものが その御身に忍び寄っているように見える。道長様が感じ取った異変とは、まさにそれなのかもしれない。
几帳の向こうから漏れる灯火を見つめながら、私は思う。この平安の都で、誰もが自分の物語を生きている。権力者も、貴族も、女房も、それぞれが懸命に生きている。その中で、私にできることは何なのか。
『源氏物語』に描く世界は、決して空想の産物ではない。そこには、この都で実際に起きている権力と愛の綾が、色濃く映し出されているのだ。だからこそ、私は書き続けなければならない。この激動の時代を、後世に伝えるために。
夜は更けゆく。几帳の陰で、私の筆はまだ止まらない。内裏からは、またも黒煙が立ち昇っているという。この平安の都で、新たな物語が始まろうとしているのか。それとも、古い物語が終わりを迎えようとしているのか。
私には、ただ書き記すことしかできない。この目で見たもの、この心で感じたもの。そのすべてを、『源氏物語』という器に注ぎ込んでいくしかないのだ。それが、この時代を生きる女流作家としての、私の使命なのかもしれない。