光る君へ あらすじ 簡単に 43話ネタバレ双寿丸の語り
「俺、来年太宰府に行く」。
その言葉を口にした瞬間、自分の声が遠くに消えていくような感覚があった。
賢子の表情が凍りつくのを見ながら、胸の奥で何かが千切れていくような痛みを覚えた。
この日が来ることは分かっていた。
いや、分かっていたはずだった。
なのに、なぜこんなにも胸が焼けるように痛むのだろう。
賢子の屋敷での日々は、まるで別世界のようだった。
炉端で立ち昇る湯気、季節の移ろいを映した食膳、そして何より、賢子の優しい微笑み。
まるで、俺という人間を包み込むように降り注ぐ、温かな日差しのような存在。
いつしかその温もりは、凍てついていた俺の心を、少しずつ、確実に溶かしていった。
そんな穏やかな時の流れの中で、俺は気づかないふりをしていた。
賢子の眼差しに宿る想いに。
茶碗を差し出す指先の僅かな震えに。
俺への気持ちを必死に抑え込もうとする彼女の健気さに。
気づかないふりをすることで、この居心地の良い日々を永遠に続けられるような錯覚に浸っていた。
「私も一緒に行く」。
震える声で告げられたその言葉は、まるで刃物のように俺の胸を貫いた。
行かせるわけにはいかない。
太宰府での生活は、都の優雅な暮らしとは比べものにならないほど過酷だ。
それ以上に、この先に待ち受けているかもしれない危険から、彼女だけは守らなければならない。
「女は足手まといだ」。
その言葉を吐き出した瞬間、舌が焼けるような痛みを感じた。
嘘だ。
足手まといなどではない。
むしろ、賢子こそが俺の心の支えだった。
だからこそ、この想いは押し殺さなければならない。
俺には、果たすべき使命がある。
その道の先には、もしかしたら――。
「お前を連れて行く気はない」。
最後の言葉は、まるで自分の心臓を締め付けるように痛かった。
賢子の瞳に映る悲しみを見るたび、全てを投げ出して彼女と共に生きたいという衝動が押し寄せる。
でも、それは許されない。
俺には、背負わなければならない宿命がある。
「妹みたいなお前がいて」。
その言葉を口にしながら、心の中で血を吐くような思いだった。
妹などという言葉で片付けられるはずもない。
この想いは、遥かに深く、切なく、そして重い。
だからこそ、この言葉で全てを終わりにしなければならない。
笑顔を作りながら、俺は必死で涙をこらえていた。
賢子への想いが溢れ出さないように。
この別れが永遠の別れになるかもしれないという予感が、心を引き裂くように痛んだ。
空を見上げると、雲一つない青さが広がっていた。
この清らかな空のように、俺も自分の道を真っ直ぐに進まなければならない。
たとえそれが、最愛の人との別れを意味するとしても。
心の奥底で燃え続ける想いを抱えたまま、俺は太宰府という運命の地へと向かわなければならないのだ。
ただ、きっと生涯、忘れることはないだろう。
賢子の屋敷で過ごした、あの穏やかで温かな時間を。
そして、この胸に深く刻み込まれた、言葉にできない想いを。
光る君へ あらすじ 簡単に 43話ネタバレ賢子の語りで
「俺、来年太宰府に行く」。
その一言で、私の世界が音を立てて崩れていった。
ああ、この日が来るのを、どれほど恐れていたことか。
双寿丸様の口から、その言葉が発せられる日を。
炉端で煮立つ湯気が、いつもより白く立ち昇って見えた。
私の心が凍りついていくのを、必死で堪えながら。
「私も一緒に行く」。
自分でも驚くほど、声が震えていた。
でも、この想いだけは伝えずにはいられなかった。
双寿丸様と過ごした日々は、まるで夢のようだった。
季節の食材を吟味して作る料理。
その度に浮かべてくださる満足げな表情。
何気ない会話の中で交わされる穏やかな笑み。
そんな何気ない幸せが、私の日々を満たしていた。
「女は足手まといだ」。
その言葉が、刃物のように胸を抉った。
それでも、私は諦めきれなかった。
「お前は都で良い婿を取って、幸せに暮らせ」。
その優しさが、かえって残酷だった。
私の幸せは、ここにあるのに。
双寿丸様の傍にいることが、この身の全ての願いなのに。
「お前を連れて行く気はない」。
きっぱりと告げられた言葉に、もう何も言えなくなった。
押し寄せる涙を必死で堪えながら、私は最後の問いを投げかけた。
「ご飯を食べに来ていただけなの」。
この問いには、どれほどの想いを込めただろう。
あなたにとって私は、何だったのですかと。
「ああ。うまい飯がゆっくりと食えて、妹みたいなお前がいて。楽しかった」。
その笑顔が、これほど切なく感じたことはない。
妹。
その一言で、全てが終わったのだと悟った。
私の想いは、決して届かないのだと。
でも、不思議と涙は出なかった。
ただ、胸の奥が、千切れそうなほどに痛んだ。
窓の外を流れる風が、いつもより冷たく感じた。
もうすぐ冬が来る。
双寿丸様が去っていく季節が。
私は、きっとずっと覚えているのだろう。
この方の背中を見送った、この日の空の青さを。
炉端での温もりを。
交わした言葉の一つ一つを。
そして、決して叶わぬと知りながら、この胸に秘めた想いを。
もしも、あの日、もっと強く引き止めていれば。
いいえ、それは許されない夢だったのだ。
双寿丸様には、果たすべき使命がある。
私にできることは、ただ祈ることだけ。
どうか、無事で。
どうか、幸せで。
たとえ、その幸せに私の居場所がなくとも。
空には、一片の雲もない。
まるで、私たちの別れを見届けるかのように。
青く、澄み切った空が広がっていた。
ただ、この胸の痛みだけが、私の想いの確かさを証明していた。
さようなら。
きっと二度と口にすることのない、その想いと共に。
